論文が出版されました

お知らせ,研究成果

本研究室も参画した研究プロジェクトの成果がAppled Surface Science誌(IF = 6.3, 2024年)に採択されました。本研究では大型放射光施設(SPring-8)の原子力機構専用ビームラインBL23SUを利用して測定した光電子分光スペクトルの測定データをベイズ推定に基づく新しい手法で解析し、熟練者と同等の解析を自動で行えることを示しました。また、本手法では熟練解析者でも成し得なかった歪みの大きさの時系列変化を測定できる可能性も示唆されました。

題目:Bayesian estimation analysis of X-ray photoelectron spectra: Application to Si 2p spectrum analysis of oxidized silicon surfaces
著者:Hiroshi Shinotsuka, Kenji Nagata, Hideki Yoshikawa, Shuichi Ogawa, Akitaka Yoshigoe
雑誌:Applied Surface Science 685 (2025) 162001.
DOI:https://doi.org/10.1016/j.apsusc.2024.162001

【発表のポイント】

  • 放射光を用いた光電子分光法で得られる高分解能なスペクトルデータの解析において、熟練の経験者が長い時間をかけて実施する解析と同等の結果を得ることができる自動化解析法を開発しました。
  • 数理科学おけるベイズ推定を基盤とした解析方法によって、従来の熟練経験者が行う解析を再現することができました。さらに熟練経験者でも成し得なかったスペクトルの位置変化も追跡することができました。
  • 本研究成果により高分解能な光電子スペクトルの自動解析が行えるようになり、次世代立体構造半導体デバイスや触媒などの開発に活用されると期待されます。
ベイズ推定に基づく解析方法で解析したSi2光電子スペクトルの変化。従来手法では酸化Siのピーク出現位置と歪みSi由来のピーク位置をあらかじめ決めておく必要があり、両者を区分して解析するためには経験と参照データが必要であった。本手法ではピーク位置をあらかじめ固定せずに、数理科学的な処理のみで複数の信号を区分し、それらの変化を追跡することができた。
トランジスタで利用されるSiO2/Si界面の模式図。酸化により界面近傍のSi原子に大きな歪みが発生し、その歪みを緩和するため欠陥が生成される。デバイスの性能を悪化させる欠陥を抑制するためには歪みの計測が必要とされ、本研究で開発した手法の適用が期待されている。